
トロントの Billy Bishop 空港に行く人は多くても、その入口のすぐ隣に、こんなに静かで重みのある場所があることを知っている人は意外と少ないかもしれません。
先日、空港周辺を歩いて写真を撮っていたときに立ち寄ったのが Ireland Park。空港の近くという立地からは少し意外ですが、ここはトロントの移民の歴史、特にアイルランド大飢饉とその後の到着者たちを記憶する大切な場所です。Canada Ireland Foundation は、この公園を「トロントのウォーターフロントにあるアイルランド大飢饉移民の記念空間」と位置づけています。
今回行ってみて感じたのは、ここは観光地というより、足を止めて読む場所、立ち尽くして考える場所だということでした。写真に写っている大きな黒い石の壁、ガラスの塔、そして少し離れた場所に立つ人の彫像たちは、派手ではないのに強い印象を残します。Ireland Park は 2007年に完成し、Bathurst Street の突き当たり、Éireann Quay の水辺に設けられました。
目次
Ireland Park ってどんな場所?
Ireland Park は、トロントのウォーターフロントにある記念公園です。
公式には、1846年から1849年にかけてトロントへ到着したアイルランド大飢饉の移民たちを記念する場とされています。特に1847年には約3万8,500人ものアイルランド人がトロントに到着し、当時人口約2万人だったこの街に大きな衝撃を与えました。Canada Ireland Foundation は、この場所を単なる歴史公園ではなく、過去と未来をつなぐ橋のような空間だと説明しています。

この公園の特徴は、いわゆる整った芝生のきれいな公園とは違うことです。
むしろ、石、彫刻、空、風、水辺の広がりを通して、記憶そのものを景観にしたような場所です。設計を担当した建築家 Jonathan Kearns の事務所によると、Ireland Park はカナダとアイルランドの共有された歴史を記念するために作られ、トロント側では「Arrival(到着)」を象徴する場として構想されました。
なぜ Billy Bishop 空港の隣にあるのか

初めて見ると、「なぜ空港の横にこんな歴史公園があるのだろう」と思うかもしれません。けれど、実はこの立地にこそ意味があります。Ireland Park は、かつてアイルランドからの移民たちがトロントに到着した Reese’s Wharf に近い場所に設けられています。Canada Ireland Foundation も、この公園の場所は1847年の到着地点に近いことから選ばれたと説明しています。
つまり、今は Billy Bishop 空港があり、人々が飛行機で出入りするこの waterfront は、19世紀には船で新しい人生を求める人々がたどり着いた到着の場所でもあったわけです。Heritage Toronto も、この周辺がかつての移動・到着・訓練・港湾の歴史を重ね持つ場所だと紹介しています。空港の横に記憶の公園があるのは、偶然ではなく、水辺が長く「到着と出発の場所」だったからだと考えると、かなり納得できます。
この公園が記念している歴史

Ireland Park が記念しているのは、アイルランド大飢饉の時代にトロントへ来た人々の経験です。
1840年代後半、アイルランドでは飢饉が深刻化し、多くの人が生き延びるために移住を余儀なくされました。Canada Ireland Foundation によると、混雑した船旅の中で多くの人が衰弱し、病に倒れ、セントローレンス川流域や到着後の各地で命を落としました。トロントでは数か月のうちに伝染病で1,186人が亡くなったとされています。
この公園は、その出来事を「かわいそうな昔話」としてではなく、トロントという都市の成り立ちの一部として示しています。Canada Ireland Foundation は、Ireland Park を cemetery without bodies と表現しています。つまり、ここは遺体のない墓地であり、記憶と継承の場所だということです。ガラス塔は希望の灯のような意味を持ち、黒い石の壁やブロンズ像は苦難と到着の記憶を表しています。
現地で見どころになる3つの要素
この公園で特に目を引くのは、まず黒い石の造形です。
設計事務所の説明では、これは Kilkenny の黒い石灰岩を使った彫刻的な壁で、巨大な岩肌のような質感を生み出すよう工夫されています。写真で見てもかなり強い存在感がありますが、現地ではもっと重く、静かな圧があります。しかもこの石の壁は、船首やアイルランド西岸の地形も連想させるように設計されています。
次に印象的なのが、ガラスの円筒形の塔です。
これは希望や導きの象徴として置かれており、Canada Ireland Foundation は、現代の移民たちにとっての inspiration and hope の beacon だと説明しています。写真で見ても、暗い石の間に立つ半透明の塔が、少し不思議なくらい明るく見えます。

そしてもう一つが、Rowan Gillespie による5体のブロンズ彫像です。
Dublin の Custom House Quays にある famine sculptures が「Departure(出発)」なら、Toronto の Ireland Park 側は「Arrival(到着)」を表しています。Dublin の7体に対して、Toronto 側が5体なのは、航海や到着までに失われた命を暗示する意味もあると公式は説明しています。写真に写っている人影の彫像は、まさにこの到着の記憶そのものです。
実際に歩いて感じた空気

この場所の良さは、歴史を知ってから歩くと急に変わるところです。
何も知らずに見ると、空港横のちょっと不思議な彫刻公園に見えるかもしれません。けれど、案内板を読み、彫像の距離感を見て、水辺の風景と重ねると、ここがただの公園ではなくなる。写真のように曇った日のほうが、むしろこの場所の静けさや重みが伝わる気がしました。
また、背後に見える waterfront の景色や、空港のすぐ近くという立地も印象的です。
にぎやかな移動の場所の横に、立ち止まって考えるための空間がある。このギャップがすごくトロントらしいと思いました。建築家側も、Ireland Park を quiet retreat であり sacred space と表現していて、街から切り離されすぎず、それでいて静けさを持つ場所として設計されたことがわかります。
どんな人におすすめか
この場所は、派手な映えスポットを探している人より、トロントの背景を知りたい人に向いています。
Billy Bishop 空港を使う前後に少し時間がある人、ウォーターフロントを歩くのが好きな人、移民の街としてのトロントに興味がある人にはかなりおすすめです。Heritage Toronto でも、この周辺は Little Norway Park や Canada Malting silos と合わせて、トロントの港湾と移民・戦時の歴史を重ねて見られるエリアとして紹介されています。
旅行中に「有名観光地だけではない場所を見たい」と思う人にもいいです。
実際、Billy Bishop 空港のすぐ隣にありながら、日本語で詳しく紹介している記事は多くありません。だからこそ、空港の話と一緒にこの場所を紹介したいと思いました。公式所在地は 5 Eireann Quay で、Bathurst Street の突き当たりにあります。
まとめ
Billy Bishop 空港の入口横にある Ireland Park は、ただの公園ではありません。
そこは、アイルランド大飢饉を生き延びてトロントへたどり着いた人々の記憶を刻んだ場所であり、同時に、今も移民の街として続くトロントを静かに見つめる場所でもあります。1847年の到着地に近い waterfront に置かれたこの公園は、Toronto と Dublin を結ぶ「Arrival」と「Departure」の対になる記念空間でもあります。私的には当時2万人しか住んでいなかった町にいきなり流れ着いたアイルランド人に部屋をシェアしたり、食事を与えたトロント人はすごいなぁ〜って思いました。きっと日本だったら陸に足を踏み入れることさえ許さないかもしれないなぁ。。。って。
空港に行くために急いで通り過ぎるだけでは、たぶん気づきません。
でも少しだけ足を止めると、この場所は急に深く見えてきます。黒い石、ガラスの塔、人の彫像、水辺の景色。どれも大声では語らないのに、きちんと記憶を残している。
Billy Bishop 空港を使う予定がある人も、Bathurst Quay を歩く人も、ぜひ一度 Ireland Park まで足を伸ばしてみてほしいです。
トロントには、観光地として有名な場所だけでなく、こうした歴史や物語が静かに息づく場所もあります。そんな街の魅力を日本語でゆっくり知りたい方は、Toronto Kiki のツアーガイドもぜひご覧ください。
https://torontokiki.com/

